不在だけが存在した、虚しい結末。新国立競技場・検証報告書を読んで。片山惠仁 ( @YOSHIMASAKATAYA)

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2015年9月24日に公開された『国立競技場整備計画・経緯検証員会検証報告書』について、本件を追い続けている建築家の1人であり弊媒体でもおなじみ、片山惠仁さん(かたやま・よしまさ、片山惠仁建築設計事務所代表)に寄稿を依頼しました。

■1 背骨なきチーム
黒澤明の「羅生門」は人の数だけ真実があるということを示していました。それは平安の世から2015年まで一切変わりはないとおもいます。

恐らくこの30年位で日本国内でここまで注目を受けた建築プロジェクトはありませんでした。国民の多くも騒いだ結果、委員会の結論は「2011年から約4年間の関係者において誰も悪意ある人はいなかった」という余りに散文的な結論です。でも、この21世紀の奇譚は、平安の世の奇譚よりも不幸なのは、リアルタイムで全ての出来事に関して主体的に語った真の目撃者がいなかったことです。

なるほど、現代の官僚制においては4年間も一つのプロジェクトに関わり続けることは困難でしょう。しかし、2000億円の攻防となるプロジェクトに関して少なくとも発注側、建築側にも連続して関わり続けた人が居ませんでした。

チームワークのコアとなる人が居ないチームが、機能するでしょうか?

このテキストの読者の多くがスポーツを愛する人でしょう。であればあなたの中で優れたチームをイメージすることは可能だと思います。優れたチームには、チームの中で目的と手段が共有されて伝達されている筈です。結論を先に言えば、新国立競技場という場所には、優れたプレイヤーがマネージメントなしでバラバラに動くようなチームが4年間存在し、混迷だけが残ったのです。

>--以下委員会報告結論参照—
>本委員会では、これまでの新国立競技場整備計画における問題点を浮き彫りとし、検証結果を取りまとめるに至ったが、その過程で行ったヒアリングの結果判明したことは、本プロジェクトに関わった多くの人が真摯に仕事に取り組んできたことである。その一方で、プロジェクトを遂行するシステム全体が脆弱で適切な形となっていなかったために、プロジェクトが紆余曲折し、コストが当初の想定よりも大きくなったことにより、国民の支持を得られなくなり、白紙撤回の決定をされるに至ってしまった。
>2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会のメインスタジアムとなる新国立競技場は、今後、厳しいスケジュールの下で整備が行われることになるが、国民の信頼を回復し、全ての国民から愛される競技場となることを期待する。(委員会報告最終頁60P)

果たしてこれは何を意味すると思いますか? 役所用語では「プロジェクトを遂行するシステム全体が脆弱で不適切な形となった」と言っていますが、要は「一貫した責任者が居ませんでした」という意味です。

■2 困難さの個別的問題は明快に指摘されています。
コンパクトにまとめられた総論で問題は言い尽くされています。委員会報告の問題の検証2において、このプロジェクトの困難さの骨格を以下のように整理しています。

■1-1 プロジェクトの{個別要素としての}困難さ
解説:デザインの斬新さ/敷地の狭隘さ/予算のタイトさ/ECI(準随意契約)による経済競争の減少/311以降の労働力逼迫/2020東京招致以来の東京での建設ブーム等です(注:この件に関しては、個別の技術者の対応では困難な部分が大きいわけですが、規模と類例のなさによって困難さが増しました)。

■1-2 予算を容易に語ることの危険さ
解説:規模が様々に変遷していき、建設インフレも進行したこの4年間のプロセスで、1300億/3000億/1625億/2550億と単純に並べることは非常に危険なことです。
注1:これに関しては、日建設計が自社の建築インフレ情報に基づいた価格見込みをJSCにコメントしており、注目に値します。
注2:さらに、インフレ前の物価水準や、円高時代の為替レートで海外プロジェクトと比較などされながらお茶の間を賑わせたことは記憶に新しいですよね。

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