不在だけが存在した、虚しい結末。新国立競技場・検証報告書を読んで。片山惠仁 ( @YOSHIMASAKATAYA)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

■2見直しに至ったプロセス
-1責任者の不在。

解説:これは重層した問題であるということを指摘しており興味深いです。

A:JSC自体が本質的には決定権限がない。
文部科学省や有識者会議に諮る必要があり、素早い問題解決に至らなかった。特に有識者会議は安藤忠雄氏以外は建築専門家が居ないので、各界の有力者が自分に関わる問題に関し建築的に有効な判断を下せたか疑問だと結論づけています。

B:予算枠においても責任をもって判断できる組織がなかった。
予算判断に関しても非常に判断が難しかったことが指摘されています。当初の有識者会議で求められた建築の規模や諸室要求等を優先するのか? 予算規模を優先するのか? ということが最初から最後まで困難だったことが示されています。有識者会議/文部省/JSCの3者のどの組織の誰が最終的に判断する責任を持つ人なのかが定義されていなかったということです。

C:文部科学省、JSCの双方にこのクラスの建築プロジェクトを纏められる建築専門家がそもそも居ない。居なくて当然なのに、国土交通省にヘルプを頼むとか、設計施工一貫式プロジェクトにするとか問題の乗り越えの知恵も足りなかったと断じています。

-2国民に対する説明の不在
国全体のプロジェクトとして納税者への説明の意識があまりに低かった。特に、国立競技場の用途や魅力を積極的に国民にPRする意識が低すぎたと断じています。

スキャンダラスな報道に先んじて丁寧な説明
スポークスマンを配する

ということを指摘しています。でもそれだけでしょうかね?? ここでより深く検証されるべきは、21世紀の社会において、施設の使われ方の国民的合意形成がどのようになされるべきかをあまり反省していませんよね。

恐らく、このテキストを読まれる方はスポーツを愛する人々でしょう。スポーツを愛する読者の皆様の中で、理想の施設像は一人一人の中で様々だと思います。例えば、どういう施設がほしいのかということに関して、意見を収斂するに値するジャーナリストやスポーツピープル同士の意義深い公共に開かれた討論などが公開の場で重ねられていれば、国民の多くが納得できる施設のプログラムが作れたのではないでしょうか?

結論—天才的な個人が決定しえない時代の典型的な失敗と教訓。
かって、天才的な一人のリーダーがチームを人間的な魅力と洞察力で率いた時代がスポーツにありましたよね。日本のスポーツ界でも、西鉄ライオンズの三原修や南海ホークスの鶴岡がそういう時代を作っていました。

その限界に最も早く気づいた川上哲治は、優れた戦術コーチなどを導入しつつ、あくまでも監督個人の状況判断に依存しすぎず、各選手に役割を持たせてチームとして戦うことを提示しました。個人としてチームをまとめる人間の存在と、各プレイヤーが各々に個人の力量を発揮することは本来両立するわけです。

ひるがえって、今回の新国立競技場に関しては、どういうことが起きたか? 各プレイヤーは日本の建築専門家の最高峰の技術者でした。いや、ザハ=ハディドに至っては世界最高の建築デザイン賞の殆どを勝ち取り、ついに歴史ある英国王立建築協会の栄えあるゴールドメダルを167年の歴史の中で女性初の受賞者になりました(参照)。

でも、残念ながら今回のオリンピックには、プロジェクト全体に影響力を持ちうるマトメ役は居ませんでした。特に現代の社会において12番目のプレイヤーたる、今このテキストを読むスポーツピープルに届くようなヴィジョンを伝える人が居ませんでした。

失敗の本質は、現代におけるリーダー像の定義が出来ていなかったことだといえます。これは、この社会において何時でも繰り返される可能性の高い困難な問題です。豊かな現代の日本においては実は個人のレベルに於いて殆どのものや個人的な空間はお金を出しさえすれば何とでもなるのです。でも、スポーツのような共有される空間をいかに作るのかという状況において問題はえぐりだされました。

出来れば、このテキストを読む皆さんが、地域のスポーツやその施設のあり方などにおいて、聡明な意見をお互いに尊重しつつ議論を重ねることによって、主体的に関わり、その環境を整え、維持し、お互いに豊かな環境を共有するために一人ひとりが考えて欲しいと思います。

建築物や空間を作る技術者として言えることが一つあります。建築はそれを作る社会の水準を超えて存在することはありません。そしてこの国のスポーツ空間を決定するのはこの長いテキストに付き合って下さったような聡明なスポーツピープルです。よろしくお願いします。

(かたやま・よしまさ、片山惠仁建築設計事務所代表)

photo:See-ming Lee

1 2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

IMG_4512

「2016年問題」は始まりにすぎない。払底するハードの整備に打開策はあるか? レジー @regista13 の「スポーツサイトで音楽の話をしよう」

2016.02.01

枯渇するスタジアム問題に打開策はあるか? (写真と本文は関係ありません 撮影:澤山大輔) ■音楽マーケットから見る新国立競技場問題 2016年は初...

IMG_6750_R

圧倒的に素晴らしい市立吹田サッカースタジアムは、なぜ安価で建設できたのか? キーマンに聞く 建築秘話

2016.01.25

撮影:澤山大輔(以下すべて同じ) 「圧倒的」「壮観」「臨場感」「観るものを魅了する」「理想の」…… 今年2月14日に名古屋グランパスとの試合でこけら落と...

IMG_1410

広島にサッカースタジアムが建設されないのは、なぜなのか? 苦闘の歴史を詳細に振り返る【前編】 #sanfrecce #jleague

2015.12.03

2015年Jリーグは明治安田生命チャンピオンシップ(CS)決勝第二戦、J1昇格プレーオフ、J2・J3入れ替え戦の開催を残すのみとなった。12月2日に行な...

12369073_1097254376951990_942488813065950603_n

【特別掲載】広島市は、サッカースタジアム建設に明確な回答を。石橋竜史・広島市議 2015年12月議会一般質問 #sanfrecce #jleague

2015.12.11

写真提供:石橋竜史(以下同) スポーツマーケティングナレッジ編集部です。今回は急きょ予定を変更し、8日に行なわれた石橋竜史・広島市議による2015年12月...

master (2)

他人に強いることを、自分には一切適用しない人々。五輪エンブレム取り下げプロセスに見る、民主主義の危機 text by 未発育都市( @mihatsuikutoshi)

2015.10.15

アスリートナレッジ編集部です。今回は、五輪エンブレムの取り下げ自体の是非ではなく、そのプロセスに観る危機的な状況について、『未発育都市』・ノエル氏に寄稿を依...

master

【後編】新国立競技場“騒動”の虚と実 千田善( @ZenChida 元オシム通訳)×またろ(@mataroviola 一級建築士)

2015.11.10

(※本記事は、アスリートナレッジにて2015年07月に掲載された記事を再編集したものです。対談収録日:2015年07月23日 聞き手:澤山大輔) ...

uchino1

全会場フリーWi-fi完備!“インスタの聖地”となった米MLBのソーシャル戦略(内野宗治)

2015.12.25

■"Instagramの聖地"と化すMLB 米国MLB(メジャーリーグ)では昨今、スマートフォンやソーシャルメディアの普及に伴い、ファンの観戦スタイルが大...

IMG_6967

東京五輪へ日本人選手を! 日本企業がマケドニアのチームを買収したワケ #daihyo #jleague #gamba  

2015.12.08

8日、東京都内にて興味深い記者会見が行なわれた。エムコンサルティンググループ株式会社(東京都港区)による、マケドニア1部リーグ・FKラボトニツキの買収お...

IMG_7126

リーベルサポは悪者、でいいのか? 未熟過ぎる受け入れ体制に目を向けよ(舩木渉)

2015.12.24

スポーツマーケティングナレッジ編集部・澤山です。今回は予定を変更し、クラブワールドカップ2015において大きな話題を生んだリーベルプレートのサポーターに...

IMG_1415

目を疑うほど、お粗末な会議体。広島にサッカースタジアムが建設されないのはなぜなのか?【後編】 #sanfrecce #jleague

2015.12.04

>>広島にサッカースタジアムが建設されないのは、なぜなのか? 苦闘の歴史を詳細に振り返る【前編】>> ■初リーグ制覇が、止まった時計を動かす サンフレッ...