【後編】MLS・20年目の結実、その理由に迫る/中村武彦(MLSアジア戦略コンサルタント)

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――アメリカでは、選手のセカンドキャリアという言葉が存在しないんですね?

中村 存在しないとは言いませんが、そこまで大きく取り上げられることはないです。アメリカのスポーツは、大部分が大学を卒業しています。一定の成績を取れないとその選手は部活動停止になるので、みな引退した後に就職します。だから『セカンドキャリア』という単語と概念は、アメリカではそこまで大きくは取り上げられません。皆が立派な大人ですから。元選手を雇用するかということですが、ネームバリューがあってアンバサダーになれるくらいの選手ならいいと思います。けれど、それでもゴールは設定する必要がありますね、「これだけの売上を挙げてね」とか。

※本記事は、アスリートナレッジにて2015年08月に掲載された記事を再編集したものです。対談収録日:2015年07月26日 聞き手:澤山大輔、横原義人)

それから、下部組織に対する考え方も全く違います。アメリカには野球もバスケもアメフトも、基本的にアカデミー組織はありません。すべて、大学ですよね。2007年に、MLSに「下部組織を作ろう」と言う声があがった時、オーナーたちからは「いいよ。でも、何年後にいくらになって返ってくるの?」と言われたのです。「アカデミーだからそんなものは数値化できません」と言ったら、「じゃあ、大学のままでいいじゃないか」と言われました。

――当たり前のことなのかもしれないですが、かなりシビアですね

中村 サッカー的には言語道断な話かもしれませんが(笑)、そのような費用対効果に関するやり取りがありました。。その時クラブたちは3つほど提案を出しまして、1つは「強化部にはこれだけ必要で、1人目は育てて売ります、年にこれだけ必ず売るようにします」と。2つ目は「例えば優れたストライカーを育成できれば高額の外国人を連れてこなくて済むから、その分払うはずだったお金をセーブできます」と。実入りはないけど支出を抑えられ、純利益は上がりますというロジックですね。3つ目は、ヤンキースとかバルサとかマンUのように「同じ世代の選手たちがそろってトップ昇格した方が中長期的にはクラブの経営が安定しますし、ファンからのサポートも厚くなりビジネスにも繋がります」と。

ただ、ネックになったのはアメリカの指導者レベルの低さでした。そのままではアカデミー運営などできないので、コーチをフランスへ留学させる提案をしました。フランスサッカー協会が育成年代のコーチライセンスを発行していて、「全チーム全員で留学しますから、「投資」してください」と言ったらOKをもらいました。そこでMLSの全チームのアカデミー責任者が一気に留学したのですね。今はMLSとフランスサッカー協会が提携して、MLSの指導者は毎年クレールフォンテーヌに行っています。またフランスサッカー協会の指導者を雇って、彼はフルタイムでNYにおり、全チームを巡回してアカデミーを観て回っています。

アメリカの課題は、あとは指導者のレベル向上です。もともと他人に学ぶことを好まない国民性で、リーグ創設時から海外の指導者を呼ばずアメリカ人主体でやってきました。だから、南米や欧州とは違う独自のサッカーになっていますよね。日本人が南米や欧州に移籍すると、ベースが一緒ですから比較的早く順応できます。ですけど、アメリカに突然来ると「めちゃくちゃだ」となることが多いですね。

――日本人が順応しにくいのは、どういうところなんですか?

中村 日本はリーグができた時から、ブラジルや欧州のやり方を取り入れて来ましたよね。日本には、海外の良いものを取り込んでさらによくする文化があります。サッカーもそうなんですよね。日本人選手が欧州に行っても、ベースが同じだから、いきなりボランチに入っても、サイドバックに当てたら返ってきてその間に逆サイドが反応しているとかわかるものなんですね。

でも、アメリカの場合はゼロベースからブルース・アリーナやボブ・ブラッドリーらが監督としてやってきて、南米流も欧州流もそこまではベースにないんです。アメリカサッカーってどういうもの? と言われたら、ひたすらゴールへの最短距離を探すサッカーなのです。ホッケーやバスケと一緒。いわゆる組み立などはあまり上手ではない(笑)。ボールは簡単に中盤の頭を超えていくんですよ。で、相手と競ってそのセカンドボールを拾うとか、あるいはひたすら1対1で仕掛けて抜いていくとか。

ボールを持ってからなんとかする選手ならいいんですが、周りと連動する選手、周りを使って活きる選手だとアメリカにそういう概念が薄いので順応には苦労すると思います。

例えば、サイドバックにボランチの選手がボールを当てたとしたら、そのサイドバックの選手はいきなりボールを返さないでドリブルで仕掛けていったり、ロングボールを蹴ったりするのです。加地亮選手が移籍してきて最初に戸惑ったのもそこで、きちんと組み立てようと、ボランチにボールを預けていました。そうしたら、皆に「いつまで後ろにパスしているんだ」「仕掛けろ」と言われたんですね。だから、加地選手を観ているとかなり無理に攻めている。「でも、それが楽しい」と本人は言っていました。

守る時は、例えば日本だったらワンサイドカットして取りどころを作って、追い込んで、連動してボールを取りますよね。でも、アメリカで加地選手がそれを真面目にやっていたら、取りどころに人がいないんです。「なんでお前はいつも相手を目の前で通過させるんだ。そこで取れよ」と言われたんです。加地選手は「無茶苦茶ですわ。飛び込んで入れ替わったらアウトじゃないですか」と。1対1をとにかく求められる。そこからはガンガン加地選手も飛び込んで取りに行っていましたし、クラブからはとても高い評価を貰っていました。

だから、個人の能力はすごく伸びるんです。攻めも守りも。本当は、欧州に行く前に日本の若い選手がアメリカで個人能力を鍛えて、英語も喋れるようになって、フィジカルも鍛えて、それから欧州へ行くのが一番いいと思います。アメリカって欧州から飛行機で5時間くらいで来られます。そのうえ英語もスペイン語も公用語ですから、欧州のスカウトは気軽に来られるんですよ。いちいちローカル通訳とかアテンドしてくれる人を雇わなくてもいいですし、パッと5時間くらいで来てMLSの試合観て帰れるんですよね。

最近は、アメリカから欧州へ移籍するケースが増えてきました。フィジカルはトップレベルなので、ここでプレーできる=フィジカル面で欧州でもある程度計算できる、という目安になっています。欧州から東京まで来るのは大変ですよ。お目当ての選手がいない限り、12時間近くかけて行って、通訳を雇って、空港まで迎えに来てもらって、ご飯も連れて行ってもらって、となるとお金もかかる。そういう意味で、日本はハンデが大きいです。「アメリカに来てから欧州に行けばいいのに」といつも思っています。ご家族もアメリカだったら、海外生活するのにワンクッション入りますし。

――公用語が英語っていうのがいいですよね。いきなり、ポルトガル語とかドイツ語とかって言われても難しいですもんね

中村 ただ、僕はMLSが日本で見られてないのが悔しいですね。結構、使いようによってはいろいろメリットがあると思うんですが。

――どうしても、日本における海外サッカーの報道は欧州中心ですから、そこにアメリカが入る余地がない感じですね

中村 面白いのは、逆も一緒なんですよ。アメリカで日本のスカウトをやっていると、「日本では知られているけど、世界的には知られていない良い選手」っていっぱいいるじゃないですか。でも、「(MLSで)どうですか?」と聞くと「うーん、それくらいの給料払うなら欧州と南米から獲るからいいや」と言われるんです。

ご存知の通り、「日本から海外」は近いんです。英語表記もいっぱいあるし、テレビつければ海外の情景がいっぱい流れるし、海外旅行もよく行くし、英語も学校で勉強します。日本にいたら、「NYって意外と近い」「ロンドンって近い」と思うんですよね。

だけど、これが逆になると全く違う。海外にいると、日本ってすごく遠い国なんですよ。「日本に行く?」と言うと「うーん、どこにあるんだっけ?」ってぐらい。その差を埋めないといけないのは、今後の自分の課題ですね。日本から見る世界と、世界から見る日本は距離があまりにも違う。さすがに本田圭佑選手や香川真司選手なら欲しいって言われますけどそれ以外の選手の名前を出しても「誰?」と言われちゃうんですよね。

――まだまだそういう距離感なんですね

中村 日米ともにそうです。だから、パンパシフィック選手権を入れたかったんです。お互いにジレンマは一緒なんですよ、欧州を目指す上で。ただ、欧州は現時点でプロリーグが出来て20年前後の日本もアメリカもまだそれほど視野に入れていない。FIFAにしろ、W杯にしろ、移籍ウィンドーにしろ、全てが欧州中心なんですよね。

今後、日本やアメリカが発言権を持つためには、1リーグ単位を超えて環太平洋地域とか、あるいはJリーグとMLSという、AFCのリーダーとCONCACAFのリーダーが手を組む。6つしかない大陸連盟のうち2つのリーダーが手を組みましたとなれば、UEFAと対等に話ができるのではないのか、と考えたりします。だから、「JリーグとMLSが組む」ことは夢ですね。

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