【前編】“こやのん”が語るクラブ経営の難しさとやりがい。 小谷野薫(サンフレッチェ広島前社長)#sanfrecce

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2012-11-24 12.39.38 (1)

――もう少し在任時代のお話をお聞きしたいのですが、あのご自身をモチーフにされた『こやのん』グッズは広島サポーターのみならず、多くのJリーグサポーターにもインパクトがあったと思います。現役の社長が直々にマスコットになるという、かなり印象的なグッズでした。あのグッズが制作された経緯は、どのようなものだったのでしょうか。

小谷野 私の似顔絵がネットでいろいろと出ていたので、企画スタッフだった吉武くんが上手くデフォルメして、私のデザインキャラクターにして。それをキーホルダーにしたということです。ある種、ネットで自発的に出てきたものをどういう形で話題作りや集客の道具にするかという1つの事例です。あれはフロントが狙ってやっても、きっとそんなに流行らなかったと思います。

――なるほど、お客さんの需要を見込めない状態でアイデアだけでやったわけではない、つまりプロダクトアウトではなくマーケットインということですね。

小谷野 ネットの中で自然発生的にあったものを、どうやって集客とかグッズの売上に結びつけるか。試行錯誤の1つの例として出したら反響が予想以上にありました。ただ、経営の基本はプレーや選手の魅力を伝えていくのが王道だと思います。こやのんグッズはフロント内部で楽しくやってもらって、それは良かったと思うのですが、一方で試合告知とか、個々のホームゲームに何のテーマを設定してどうやって宣伝していくのかというのは、『こやのん』とは別にシビアに追求してきたつもりです。実際にいま振り返ってみると、できたことよりも実現できなかったことばかりが頭に浮かんできます。

要するに、一般のファンにも受けるような集客のフック、ある程度サッカー見ている人に対するフックというところで、情報発信をとにかく増やして、日常生活におけるファンや一般市民とのサッカーの接点をいかにして増やすのか。そこはクラブの命綱だと思います。『こやのん』のきっかけは偶然でしたが、それを吉武くんをはじめとするスタッフがよくやってくれて、『サンチェ』というキャラクターを売り込むことにある程度成功したことについては、スタッフの成長として嬉しく思います。また、社長になった一昨年は私自身いろいろアイデアをスタッフに持ちかけましたが、昨年は「選手のお面」以外はほとんどがスタッフ発のアイデアでした。

――確かに、『こやのんに押されて存在感がなくなったサンチェ』というストーリーが作られて、今度はサンチェいじりみたいな企画ができましたよね。

小谷野 それは彼らを自由にやらせて成功したのですが、今度は一般レベルで「カープ坊や」みたいな感じでサンチェが浸透していけるかだと思います。それは、これまでの延長線上だとまだまだ弱いように思います。それは今のマネジメントやフロントスタッフに現状より一段、二段上に行く企画力を付けてほしいですね。

――もう一つ伺いたいのは、地方クラブの社長としてホーム・アウェイ含め全試合に帯同されましたが、そこで見えてきたものは数多くあると思うのですが、いかがでしょうか。

小谷野 多くのクラブでは社長が実行委員を兼任していますから、必然的にかなりのJリーグクラブの社長さんはアウェーにも行っています。ただ、その上で素直にいうと、広島のクラブがJリーグやナビスコカップ、ACLを戦うのは移動距離だけでもすごいハンデだと思います。ACLに関しては、一昨年はウズベキスタンに行き、昨年はオーストラリアには2回行きましたが、本当に大変な目に遭いました。また、ウズベキスタンの帰りは清水の舞台から飛び降りる気持ちでチャーター便を手配したのですが、その直後のアウェー名古屋戦で勝ち点1を拾えたことが、2連覇を達成した最後の最後で効いたということは、クラブとしても良い学びだったと思います。

関東のクラブに比べると、ウチの選手・監督・マネージャーやスタッフは過酷な移動を本当によくこなしていると思います。現場の人たちには本当に頭が下がります。今は広島から新潟に直で飛行機で移動できないとか、そういう制約があります。さらに、広島の夏は暑い。ナイターになって気温が多少下がっても湿度がある、これをホームの利点と考えるのも可能かもしれませんが、練習をしていても本当に暑い訳で、選手には心底同情します。

――WBGT(Wet-Bulb Globe Temperature)値では、基本的に31度以上の気温では運動自体が原則禁止となっていますしね。となると、練習自体は本来ほとんどできないわけですよね。

小谷野 まさしく、気候からしても移動距離からしても、選手は本当によくやってくれています。一方で、Jリーグの地域的な広がりも大事にしたいですね。僕もJリーグがなかったらそうは行かなかったであろう地域に行って、ナイターをやった後にその地域に泊まって、地域の人達と交流したり、空いているお店に行って祝杯を挙げたり、残念会をしながらご飯を食べたり。これは本当に、大変な遠征の旅ではあるけど、Jリーグがなかったら行かなかったであろう場所で、まず出会わなかったであろう人たちや料理に会えたことはすごく大きかったですね。Jリーグの大きな意義はそこにあるということを体感しました。

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