【徹底分析】天皇杯決勝であらわになった浦和の課題。JチームがFCバルセロナに勝つ道筋を探る スペイン在住コーチ・堀江哲弘

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■後半のガンバの勝ち越し点について

後半のガンバの勝ち越し点はCKからでした。あたかも槙野がパトリックのマークを簡単に外してしまったようにみえますが、今野が槙野の進行方向をブロックしていました。ガンバの連携プレーの結果でありこれについても槙野だけを責めるのは少し酷に思えました。むしろ気になったのは森脇がペナルティエリア外に誰もマークせず立っていたことです。CKで一番危険な場所はペナルティスポット付近でありそこに彼がいれば防げた失点でした。いずれにせよこの一点が浦和に大きくのしかかりガンバにとっては大きく優勝を引き寄せる値千金のゴールとなりました。

■ガンバの勝ち越し点後から試合終了まで

勝ち越された浦和は、梅崎と武藤を下げてズラタンと高木を投入。組織として数的優位をつくれないので、個人によるドリブル突破やロングボールからの競り合いで相手守備を攻略する方針に変えました。実際にそれでチャンスを何度かつくれましたし最後のパワープレーで槙野に決定的なシュートチャンスもありましたが決めきれずでした。結局、そのまま浦和がガンバの守備を崩せず2-1でガンバの勝利に。

■試合全体を通して

浦和にとっては柏木の不在が強く響いた試合でした。個々の選手は一生懸命戦っているのですが、相手守備位置を見極めずひたすら前に向かっていくスタイルで、まるでハンドルのないスポーツカーが暴走しているようにみえました。

最後のパワープレーで槙野が決定的なチャンスを得た以外は、どれも遠目からのシュートだったり、相手守備がきちんと整った上でのシュートが多かったです。シュート数自体は多かったものの、それほどガンバの脅威になっていなかったように思えました。逆にガンバからすると前半早々にケガで米倉を失い厳しい展開を強いられましたが、相手の猛攻をうまくしのぎ快心の勝利だったと思います。特に米倉の負傷で急遽ボランチとしてプレーした井手口にとっては大きな経験になったのではと思います。浦和の関根や高木は素晴らしいポテンシャルを持っている選手ですが、チームとしての連携や協力が課題でした。

■Jリーグのチームが世界のトップレベルのチームに追いつくには

最後に、今回の天皇杯をみたうえで世界のトップクラブのチームと比べて何が違うのか、どうすれば日本のクラブが世界一のクラブになれるのか、考えてみます。特に先日のクラブワールドカップで三位決定戦(広島対広州恒大)と決勝(バルサ対リーベル)をみられた方々は、その差を大いに感じたことと思います。私自身、バルセロナのアマチュアリーグで指導者をしていますがその視座から今回は競技面に限定しつつ思うところを二点あげます。

■守備の強度不足、ファウルで止める意識の欠如

ボールを持っている相手に対する寄せる間合いや速さに、大きな違いがあります。パスコースを切って満足するのではなく実際にボールを奪いに行く姿勢を見せることで相手に視野を確保させないようにさせることができます。

さらに、1対1の守備の根本ですが抜かれそうになったらファウルで止めるという意識も足りません。これについては子供のころに染み付いてしまってる部分もあり、プロのみならず育成年代含めて日本全体の課題と感じます。特に何度か日本の部活動の先生方とお話させていただく機会もありましたが、そこで「反則して止めろ」というのには強い抵抗感があって試合中にそのような指示を他チームに聞かれたら付き合い上うまくやっていけないという意見もありました。

ちなみに私はリーグレベルは低いものの、バルセロナで地元クラブのU14の監督とトップチームの第二監督をしていますが、試合中にそのような指示を出しても問題になることは一切なく、むしろ常識として受け止められてます。

■スペースや人の駆け引きの欠如

今回は試合の流れでガンバが守備的に戦い、浦和が主導権を握ったため浦和の攻撃戦術の課題が露わになってしまいましたが、相手ポジションや試合状況によって柔軟に攻め方を替えるとか、オフザボールの動きも含めて組織的にあるいは局面で数的優位をつくる工夫は日本の男子サッカー全体の課題だと思っています。そもそもそういうサッカーを指向してないといわれてしまうと元も子もなくなりますが日本のクラブが世界一になるためにはこれが必須と考えます。

身体能力で世界のトップに立てない日本人が世界のトップレベルに入るためには、パワーやスピードだけではなくスペースか人かを迷わせる駆け引きがどうしても必要です。当時ヨーロッパ内で比較的身体能力に劣るスペイン代表が2008年のUEFA欧州選手権で優勝するためにその概念が共有され、そして実際に優勝しました。

また同年にグアルディオラがFCバルセロナの監督に就任し世界を席巻して以来、その概念は今やバイエルン・ミュンヘンはもとよりドイツ代表にも反映され、ボルシア・ドルトムントのトーマス・トゥヘル監督をはじめ多くのチームや監督に影響を与えています。世界のトップレベルのマネをすれば日本は簡単に追いつけるとは思いませんが、これらは流行り廃りという類のものではなくサッカーのプレー原則としてもっと大切に捉えられるべきものと考えます。

■最後に

これが足りない、あれができてないとダメ出しだけをするだけなのは本意ではないので、最後に一つだけお話しさせていただきます。結果が芳しくなければ監督のクビを切られるのはプロとして当然ですし、私の住むバルセロナに至ってはアマチュアレベルでもそれは常識です。その部分については否定しませんがその一方で監督のクビをいくら切ったところで上記の課題が根本的に解決されるとも思えません。

先日スペインのスポーツ新聞の記事に名将ファビオ・カペッロの囲み取材の記事がありました。現在のFCバルセロナと90年代に黄金期を迎えたACミランとの共通点をきかれ彼は「生え抜きの選手の多さ」をあげていました。それは各々のクラブ哲学に則って長期的計画を継続的に進めていくことが最終的な成功につながるという意味を言外に感じました。まさに近年のサンフレッチェ広島も継続的な取り組みが実を結び、多くの生え抜きがトップチームで活躍しています。

世界のトップレベルとはもちろん差はあるものの広島を始めJリーグのクラブが長期的な計画のもとにさらに発展していくことを願ってやみません。

<了>

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