圧倒的に素晴らしい市立吹田サッカースタジアムは、なぜ安価で建設できたのか? キーマンに聞く 建築秘話

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■なぜ4万人収容に増やすことができたのか?

――改めてコストダウンの仕組みについてお伺いできればと思うのですが。安く作ると言っても人件費や資材のカットがあると思いますが、人件費を削るのは大変だったのではないでしょうか

水川 実際、総事業費140億円のうち、かなりの部分は工事費にいきます。135億円ぐらいですね。設計施工を竹中工務店さんに決めるのも、コンペで決めたんです。最初にわれわれをコンストラクション・マネジメント会社に選んでいただいたあと、なにをしたかというと、ガンバさんの桑原常務やスタッフの方と一緒に要項書というのを作りました。発注者側がどういうスタジアムを作りたいのか、きちんと文章化したのですね。この部屋は何㎡いる、この部屋にはこんな機能がいる、そういうところをまとめていただいて、これを建築の設計施工者にわかるような形で僕らが整理して。

次は、設計施工者をどんな決め方で選ぶかというルールなんですけど、そこは僕らの方で付け加えて、要項を作りました。まずはステップとして作りたいものをきちんと文章化したあと、「どんな提案で、いくらの金額でやっていただけますか」ということを求めたんです。求める先は実績のあるこういうクラスの設計施工者で……と基準を決めて。最終的に応募いただいたのは竹中工務店さん、鹿島建設さん、大林組さんの3社です。

募金団体のホームページにも3社の提案が公開されていますけど、いかに皆さんがこの仕事に興味を持っていただいたかという部分が一番の原動力になっているんですよね。そのためには、こちらの要望に沿ったものをいかにきちっとプランにして形を見せてくれるか。デザインとしてみせてくれるか。それをいくらでやりますという宣言をしてくれるか。そういう提案書を求めて、各社に説明をさし上げたんです。

最終的に応募された3社とも、ものすごく熱を入れていただいた。これはやっぱり、「関西でサッカー専用スタジアムを作る」という点で、応募された3社もものすごく意識が高かったと思うんですよ。最初の理念がすごくしっかりしているので、やはり人を巻き込むことができる。プロジェクトの芯がしっかりしている。

僕らも、各応募者には技術面でもそうですが、コスト面でも1番にならないととても当選できないですよ、ということを申し上げました。結果的に、各社とも全社を挙げてやってくれました。ある会社は東京から専門のスタッフを呼んでいただきましたし、随分皆さん力を入れていただいた。それだけ、この仕事がしたいということもあったでしょうけど、プロジェクトが魅力的だったんじゃないかと思います。さらに、「募金で作ろう」という心意気。これがやっぱり、インパクトを与えていた。「ぜひこの仕事をやりたい」という強烈な提案書でしたよ、みなさん。ものすごく高いレベルの競争をしていただき、けっこう安い工事費が出てきた。

審査委員会は、設計施工者を選ぶところからきちっと見ていただこうと。それで外部の専門家も入れて、関西学院大学の加藤先生に委員長になってもらい、外部の審査員の方にも入っていただきました。要項書づくりまでガンバ大阪さんで作業をして、その後募金団体を作っていただいて、それから設計施工者の選定という流れになったんです。審査委員会の席で「こういう提案書が出てきました」と報告して、われわれが技術面の基礎評価をし、学識経験者・サッカー界の方たちなど外部の審査員の方々の意見を踏まえ理事会で、「これが一番だね」となったのが、今建っている竹中工務店さんの案なんです。

金森 審査委員会には、Jリーグ広報部の佐藤仁司さんも入っています。Jリーグの中で、スタジアムに関してはあの人が一番知っていましたから。

水川 そこでさっきの話に戻りますが、要項書では3万2千人収容なんですけど「将来的に4万人収容に出来るように」という提案書を求めたんです。で、出てきた3万2千人収容の提案が非常に魅力的だったので、理事会にはかったら「もう最初から一気に4万人にしようじゃないか」となりました。

金森 確かあれは川淵三郎さんだったとおもいます。『4万人にしようよ!』と言われたのです。で、下妻さんが「俺もそう思う」と。そうなったら、もう決まりでしたね(笑)。

水川 シーンとなって、「もう行くしかない」と(笑)。僕らはそのとき正直「4万人いけるかな?」と思ったんですけど、竹中さんの提案のベースの工事費が低かったので、頭の中で掛け算・足し算をして、4万人になったとしても大丈夫と判断してスタートしたんです。そんなことも、募金団体だからできたこと。行政でやっていたら、3万2千を4万にするなんて至難の業です。そういう判断が、すごくスピーディにやれたのが良かったなと思います。

――3社からの提案がある中で、竹中工務店さんに決められた理由はどのあたりにありましたか?

水川 3社の外観のイメージと、審査委員会の講評を文章でオープンにしていますから。どういう点がよかった、どういう点がもう少し足りなかったというのは書かせていただいています。そういう中で竹中さんのが一番だったと。募金で建てるので、選定プロセスもオープンにしようと。

金森 だから、投票で決めたんですね。審査委員のメンバーと、理事のメンバーとで投票して。竹中さんに決まった後は、鹿島さんと大林さんに説明に行きました。

――3案、3社いずれも相当に熱を込めた自信作を提案していたのですね。

水川 そうですね、各社。素晴らしかった。

金森 川淵さんが私の隣で涙を流されていたおぼえがあります。3社の提案を聞いて、すごく喜んでいた。「サッカーを理解して提案してくれている。ここまで来たか」と。

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