圧倒的に素晴らしい市立吹田サッカースタジアムは、なぜ安価で建設できたのか? キーマンに聞く 建築秘話

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■工場で作り、現場ではめ込んでいく方式

――それだけのものを、先ほど実際に中に入らせていただいて拝見しました。見てからお話を聞くと、説得力が段違いだなと。ただ実際にスタジアムを見て思ったのですが、外装は塗装されていませんね。これは大丈夫なものなのでしょうか?

水川 材料的に問題ないですね。いわゆる素地のままというか、材料のままで使える素材を使っています。ただ、全て既成のパネルなんです。コンクリートの。そういったものを上手に組み合わせて使っています。これもいろいろなところでお話が出ていると思うんですけど、『プレキャストコンクリート』(以下、「プレコン」)というのを使っています。普通のサッカースタジアムは、客席の段々になっているところがプレコンで、工場で作って持ってきています。しかし今回は柱と梁とか基礎とか、すべてがプレコンなんです。

――いわゆる『レゴ』みたいな感じなんでしょうか、パーツを作って工場で組み立てて、それを輸送して現地ではめ込んでいく。

水川 そうです、そうです。これも経緯があって。最初の竹中さんの提案にはそこまでは入っていなかったんですよ。ところが東日本大震災があったりした影響もあり、これから職人さんがものすごく不足することが予測された。実はプレコンを使うとコストアップになるんです。そう理事会で申し上げたうえで、将来の職人不足によるさらなるコストアップや工期遅延のリスクを考えると、今ここで費用をある程度増やしてでもプレコンを採用することを認めていただきたいと、そういう形で理事会にご判断をいただきました。

金森 そうでしたか、プレコンは初めからは出ていませんでしたか。

水川 そうですね、スタジアム内の客席の段々はプレコンですけど、全部プレコンで作るということはなかった。設計段階で竹中さんからそういう提案が出てきた。その代わりコストアップになると。で、そこは理事会の承認を取らなければいけない。それは将来のさらなるコストアップのリスクと工期遅延のリスクを無くすことができるということでご採用頂いたんですね。現場はものすごくシンプルです。現場の中に、人が少ないんですよ。現場でコンクリートを打たないから。だから、結果的に事故が少なくなり、管理が行き届く。モノの管理も、工場で作るほうがきちんとした品質管理ができるんですね。

――素人質問で恐縮なのですが、現場で作ると雨が降ってくるとか天候不順があったりするということがあるわけですね。でも、工場だと全天候型で対応できると。

水川 天候に左右されないので、計画的にモノを作ることができます。建築の世界ってまだまだ古いところがあって、例えば自動車って雨漏りしないでしょう? でも、建築ってまだまだ雨漏りするわけです。そういうことを考えたとき、現場で手作りのところがたくさんあるんですが、やっぱり極力工場で作るほうがきちんとした品質で作ることができ、グレードがあがる。ただコストアップにはなりますが、それは採用したほうが良いですねという話を申し上げました。

金森 品質も安定するわけか、なるほど。

水川 安定しますね。やっぱり暑い中、寒い中でやっているとそれは人間のやることだから、体調が悪くなったりしますよね。

――あと、使用されている窓の寸法もほぼ一緒だという話も伺いました。

水川 入口の扉のところは、基本的にそうですね。それから窓もおっしゃるとおり、極力いろいろ種類を作らないほうが良いというのはありました。だから、竹中さんとしても非常に優れた提案をローコストで提案したがゆえに、いろいろ工夫せざるを得なかったし、工夫する能力がフル活用された。

『コンカレント・エンジニアリング』(編集部注:複数の工程を同時並行で進め、各部門間での情報共有や共同作業を行なう手法)という言葉があります。これは主に製造業の言葉なんですが、例えば自動車や機械だと当たり前のように、設計やデザインを担当する人と現場や工場でモノを作る人が意見交換をしながら作っているわけです。ただ、建築の世界はそこが未発達でした。今回はそういう意味で、竹中さんは設計をしている間に現場の責任者やスタッフの方との情報交換を非常に密にやっていました。

だから、理事会の承認を得て、設計期間中にモノをどんどん発注しているんですよ。コンクリートだとか鉄筋とか鉄骨とか。特にスタジアムのようなコンクリート・鉄の固まり、建築の言葉でいうと『躯体(くたい)』というんですけど、躯体をいかにコンパクトな形で収めて段取りをつけるか、それによってコストが決まるんです。

そういう意味では竹中さんには今回、かなり知恵を絞っていただきました。これなんかも、行政ではなかなかできないと思います。本来なら全部設計ができあがってから、工事業者を決めて、発注して、という流れになる。実際に工期は22カ月ですけど、設計の時からずっと工事は始まっていたというのが我々の見方です。実際の工期は短いですけど、実は準備を同時並行でやっていたんですね。

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