「2016年問題」は始まりにすぎない。払底するハードの整備に打開策はあるか? レジー @regista13 の「スポーツサイトで音楽の話をしよう」

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枯渇するスタジアム問題に打開策はあるか?
(写真と本文は関係ありません 撮影:澤山大輔)

■音楽マーケットから見る新国立競技場問題

2016年は初っ端から世間を騒がすニュースが多すぎてもはやずいぶん昔の話になってしまった気がしますが、元日にサッカーの天皇杯決勝を見に味の素スタジアムへ行ってきました。中学生のころからほぼ毎年1月1日はサッカー観戦をしているのですが、お正月に国立競技場ではなく味の素スタジアムで試合を見ているのは少し不思議な感じがしました。

ご存じのとおり、天皇杯決勝が味の素スタジアムで行われた理由は国立競技場が現在建て替え真っ最中のため。そして、その「建て替え」について2015年7月に安倍首相がそれまでのプランを白紙撤回、さらに急遽新しい案のコンペを実施・・・とかなり迷走しているということも様々な形で報道されています。

計画の見直しによって2019年のラグビーワールドカップには間に合わなくなってしまった、そもそも2020年の東京オリンピックに間に合うのだろうか、もとのプランでデザインを担当していたザハとは決着がついたのか、などなどいろいろな問題をはらんでいる「新国立競技場」案件ですが、「音楽」という観点から見ると一番重要なのは「当初設置するはずだったスタジアムの屋根がなくなってしまったこと」かと思います。そもそもの計画では「年間12日」のコンサートが予定されていましたが、屋根をつけないという意思決定によってこの目論見は崩れ去りました。

「あの大会場でコンサートをできる人たちがそんなにいるのか不明」「芝の問題があるから難しいのでは」などいろいろな意見が出ていたこの「コンサート12日間」という設定ですが、もしこれが計画通り進んでいれば実現に向けて様々な対応策が出てきていたのではないかと思います。さいたまスーパーアリーナのように公演ごとに収容人数を調整する方策もあったでしょうし(さいたまスーパーアリーナでは「スタジアムモード/アリーナモード」という形でステージや座席の配置を変えることができます)、大物による対バンライブ(たとえばL’Arc-en-Ciel、Perfume、SEKAI NO OWARI、MAN WITH A MISSIONが出演した2014年5月の「JAPAN NIGHT」のようなイベントなど)や海外スターの招聘にも弾みがついたかもしれません。「新国立競技場はあくまでもスポーツのためのもの、だから設備はスポーツに特化する」という方針は確かに筋が通っていますが、音楽ファンとしては一抹の寂しさを覚えました。

■「2016年問題」の「2017年以降」を考える

音源の販売というビジネスがどんどん収縮していく中で、音楽業界におけるライブの位置づけはますます重要なものになりつつあります(エイベックスの「a-nation」やビクターエンタテイメントの「ビクターロック祭り」のように、レコード会社がフェスを企画するのもそんな流れとリンクしていると言えるかと思います)。ライブをやるためには当然会場が必要になりますが、その会場が不足しているというのが昨今の実態のようです。大きなコンサート会場は何年も前からの予約が必須、なんていう話も聞きます。

その状況に追い打ちをかけるように、今年からしばらくの間は首都圏のアリーナやホールの改修工事が続きます。改修に入る理由は会場によって異なりますが、同時多発的にコンサート会場が使えなくなる現象をさまざまなメディアが「2016年問題」として取り上げたのは記憶に新しいところ。横浜アリーナ(17,000人)とさいたまスーパーアリーナ(37,000人)が同時に使えなくなる今年の2月から5月にかけては会場不足が特に厳しく、デビュー記念日である2月22日に「バースデーライブ」を毎年行っていた乃木坂46は「コンサート会場を確保できずに延期」という苦渋の決断を強いられることとなりました(http://www.nogizaka46.com/news/2015/12/21-1.php)。

「2016年問題」というネーミングのキャッチーさもあって広く知られることになったこの件ですが、2016年だけでいろいろなことが解決するのかというとどうやらそんなことはなさそうです。たとえば渋谷公会堂の改修期間は2018年まで。五反田ゆうぽうとホールの閉館(2015年9月)、日本青年館の移転に向けた一時閉館(2017年初夏をめどに移転予定)なども含め、キャパ2,000人前後のホール会場不足は来年以降も続くことが予想されます。また、10,000人程度を収容するアリーナ会場についても、2016年10月には味の素スタジアム横に新たな体育館ができるというポジティブなニュースがある一方で、2017年から国立代々木競技場第一体育館が閉鎖となるなど引き続きシビアな状況が抜本的に改善される気配はありません。

自らの動員に見合った会場を抑えられなかったアーティストは、少し小さいキャパの会場を複数日確保してお客さんを集めます。すると本来そのキャパでやりたかったアーティストがまた少し小さい会場でライブをするようになり、その結果・・・と会場不足の余波は音楽シーン全体に広がっていきます。「これからはライブの時代」なんて掛け声とは裏腹に、ハード面の整備は全く追いついていないのが実情です。

個人的に気になっているのは、ホール会場の不足に伴いさらに加速するであろう「ライブハウスとアリーナの“直結”」です。「ZEPPツアーを経て、即武道館へ!」みたいなケースは徐々に一般的なものとなりつつありますが、「スタンディングで盛り上がる」と「大きい箱で演出も含めたライブを楽しむ」という2つにコンサートのあり方が収斂してしまうと、そもそもの基本となるべき「音楽そのものを堪能する」という体験自体が失われていってしまうのではないでしょうか。ライブ会場の不足は音楽ビジネスの収益の問題のみならず、音楽文化のあり方そのものに良くない影響を及ぼす可能性があると思います。

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