「2016年問題」は始まりにすぎない。払底するハードの整備に打開策はあるか? レジー @regista13 の「スポーツサイトで音楽の話をしよう」

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■「お上」との距離感

この「2016年問題」は早くから国も認識していたようで、知的財産戦略本部が2014年4月に発行したレポート「我が国の音楽産業の国際展開に向けて」には「加えて問題となるのがコンサート会場の確保であり、東京五輪に向けて国立競技場等の施設の改修のため、複数のコンサート会場の確保が困難となる「2016年問題」が現実化しつつある。業界と関係省庁とが連携し、大規模コンサート会場の確保や代替施設の確保等に向けて取り組むことが求められている。」との記述があります。にもかかわらず、残念ながら具体的な解決策が見出せぬまま会場の改修が多発する時期に突入してしまいました。

「箱もの」に関わる話題にはお上の意思決定がつきものです。この手の問題は、国や自治体の方針に大きく左右されます。たとえばサッカーの世界を見ても、一向に進展を見せないサンフレッチェ広島のサッカースタジアム問題を考えるうえで、「3回優勝したら考える」などと発言して顰蹙(ひんしゅく)を買った広島市の市長が率いる行政の存在を無視するわけにはいきません。また、自治体を「都合の良いタイミングで使う」ことができたのがガンバ大阪。新スタジアムの「市立吹田サッカースタジアム」はその建設費用を募金で賄った一方で(建設当時ガンバ大阪の社長だった金森喜久男氏は、本サイトのインタビュー記事(http://sportsmarketing-knowledge.jp/archives/583)にて「我々としては自治体に作ってもらうという考えは初めからありませんでした」とコメントしています)、最近では「市立吹田サッカースタジアムをはじめとした万博公園周辺一帯を大阪の新たな観光スポットとしてPRしていく」ために大阪観光局との連携協定を締結しました(http://www.gamba-osaka.net/news/index/no/3860/)。

ここからは推測ですが、エリア全体を観光地化して集客につなげたいクラブと、海外に対してもイメージの良い「サッカー」というコンテンツを活用しながらブランディングを図ろうとする市の利害が合致したことでこのような取り組みが実現したのだと思います(ちなみに、大阪観光局の溝畑宏理事長はかつて大分トリニータの社長をやっていた人でもあります)。

コンサート会場が足りない、それを解決するためにはコンサート会場を増やさなければいけない。そんな問題に直面している音楽業界にとって、行政の力を借りるというのは現実的に検討されるべき選択肢なのではないかという気がしています。町興し的な役割を担いつつ、自分たちのやりたいことをやる場所を確保する。そんなことができれば、双方にとってハッピーです。

■発想転換としての「ロングラン公演」

何かしらの志を掲げて、場合によっては自治体の協力も得ながらも音楽業界主導で新たなコンサート会場を作るということが仮に実現できた場合(おそらくそれはいちアーティストが主体というよりは、レコード会社や業界団体といった大きな単位が動く必要があるはずですが)、今度はその会場をどうやって継続的に稼働するかという課題が生じます。

その会場における総公演回数は、「公演実施アーティスト数×1アーティストあたりの公演回数」と分解できます。ここで着目したいのは、「1アーティストあたりの公演回数」です。このパラメーターを増やせば増やすほど、少ないアーティストでカレンダーを埋めることができるようになります。

この話をより具体的にすると、たとえば「同じ会場で1か月程度継続してライブを行う」というような形態が考えられます。こちらのアイデアについては、サカナクションの山口一郎が具体的なイメージも含めて披露していました(http://spincoaster.com/interview_yamaguchi_ichiro_1)。

劇団四季みたいなロングランのライブが各地であるといいなと。

例えば、「アリーナで何万人集めました!」みたいなスケール感ってフェスが存在した時点であまり価値の無いものになってしまっていると思っていて。一夜で何万人も集めるんじゃなくて、1ヶ月間千人規模の場所で毎日公演するとか、週末だけ開催するみたいな形態になれば、もっと演出にお金がかけられるし、もっとインスタレーション的なものとか、ワークショップ的なこととかライブへの体験がより深いものにできるんじゃないかなって思います。

このロングラン型の公演はこれまでもお台場などに特設テントを作るといった形で行われていたこともありますし(思いつくところではVAMPSやENDLICHERI☆ENDLICHERIなど)、海外ではセリーヌ・ディオンがラスベガスで行っている定期公演が有名です。同じ場所で繰り返しステージを行うことで表現の強度も高まるでしょうし、また移動が不要なため余計なコストもかからなくなります(その分ステージ演出にお金をかけたり、場合によってはチケット代を安くしたりということができるようになります)。さらに、その公演目当てに人が集まることになれば、会場のある自治体の活性化にもつながります。

ここに挙げたやり方はあくまでも一例ですが、ステークホルダーのメリットも踏まえたアプローチによって、もしかしたら会場不足の解消と合わせてコンサートというものの新たなあり方を提示するような取り組みが生まれるかもしれません。「会場がないからライブができない、やばい」という状況を逆手にとって、ダイナミックなチャレンジが立ち上がることを楽しみにしたいと思います。

■余談というか妄想:こんなライブハウスがあったら

最後にまた新国立競技場の話なんですが、先日馳浩文科相が「新国立競技場の周辺一帯をにぎわいのあるエリアにする」「特区に指定して民間の資金を流入させる」「新国立に隣接してホテル、福祉施設、商業施設があってもいい」というようなコメントをしていました(http://www.asahi.com/articles/ASHBW5SDDHBWUTQP01R.html)。

この特区にコンサート会場があったらかっこいいと思いませんか?スポーツの聖地の近くに、音楽を楽しめる空間がある。日本のエンターテイメントの象徴的な場所として価値も高まるはずですし、その会場に立つアーティストが「いつかは国立競技場でライブを!」なんて夢を語るわけです。実現した暁には、アーティストもファンも感慨はひとしおかと思います。

イメージは椅子つきの会場。1,000人規模のホールは近場に日本青年館ができるはずなので、もう少しこじんまりとしていてOKです。マウントレーニアホール渋谷(キャパ300程度)くらいのサイズがちょうど良いですかね。名前にはぜひ「新国立(しんこくりつ)」を入れたいところです。「ZEPP SHIN-KOKURITSU」「SHIN-KOKURITSU CLUB  QUATTRO」・・・アルファベット表記にするといまいちですね。いいネーミング案があったらぜひ教えてください。

<その他参考リンク>
新国立の白紙撤回で深刻化 ライブ会場の2016年問題
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO92519700W5A001C1000000/

どうなる? 相次ぐ閉鎖による、首都圏ライブ会場不足問題
http://www.cinra.net/review/20150209-livehouse

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