【後編】新国立競技場“騒動”の虚と実 千田善( @ZenChida 元オシム通訳)×またろ(@mataroviola 一級建築士)

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またろ 千田さんに伺いたいのですが、サッカー日本代表のベンチに座っていた人として、VIPエリアで色々な人と話す機会があったと思うのですが、あのスタジアムのあり方はどうなんでしょうか?

千田 VIPエリアについてですが、選手や監督はほとんど立ち入らないです。全然関係ないですね。アスリートファーストの立場から言えば、プレーをする上では全く必要ない。記者席のほうに力をいれたほうがいいのではないでしょうか(笑)。VIPエリアは目的が全然違いますよね、サッカーなりスポーツなりをツマミにパーティをするところなので。それをなぜオリンピックのスタジアム、しかも国立でやるのかと。それは論理が間違っている。

ホスピタリティ・マーケティングという言い方をするのだけど、チェルシーは過半数、FCポルトのスタジアムでは全観客収入のうち7割をVIPが占めているとか。一般の人は単価5000円とかのチケット、それをシーズンチケットで買っている人たちがいます。で、VIPは割合としては小さいのだけど、その人たちはその数倍もする単価を払って、結果的にクラブのチケット収入のうちのかなりの部分がVIPゾーンになるらしい。それをどんどん推進すべきという論文は読んだことはあります。

その方向性は間違っているとは思わないんだけど、クラブとして地域に密着して、地域の企業の接待の場所として使うということはありだと思います。それは株式会社ですから、そういうことは必要だと思います。スタジアムを保有して自前でやるのはけっこうなことですが、それを公共財としてのスタジアムでやるのはどうなのかなと。例えば埼玉スタジアムで浦和レッズが5万人の観客にプラス、けっこういいVIPエリアがあるわけですよね。そこの人たちに向けて、例えば収入の半分はこの人たちから取ってくるという営業をしたとします。それで上手く行けばいい。けど、それを県立のスタジアムでやるなら、県にどのくらい還元するのかという話にもなる。そこらへんのホスピタリティ・マーケティングはありなのだけど、都道府県立とか国立になじむのか。

ザハ案では、2万平米のVIPエリアを作るという計画でした。その中でもカテゴリが4つぐらいあって、ごく少数の100人未満の超VIPがパーティをやるところ、その他のVIP席、あとはVIP席と言われてもスカイラウンジでもなく、おみやげだけがもらえるいわゆる“ヒラの”VIP。その差別化をするのだと思うけど、そこで収入を確保するのは良いです。だけど、国立でやるのはいいのか、オリンピックの17日間のためにやるため何百億とかけるのはいいのか。その後でどこかのチームがずっと使うわけでもない。そうなると、ペイしないんだよね。チェルシーみたいに自前のスタジアムでやるのは大いに結構だけど、それを国立でやるのは違うんじゃないですか、と言いたい。

またろ 新国立競技場のVIPエリアですが、恐らくイメージしたのはウェンブリーでしょうね。FAカップ決勝もやるしCLもやる。あそこを視察してイメージした部分はあったと思います。諸室の内訳表も見たんですけど、まさに千田さんおっしゃったとおりVIPがあってVVIPがあって、それぞれにVIP用、VVIP用のレストランが有り、普通のホスピタリティゾーンがある。ご想像されている通りだと思います。

千田 イメージとしては、ベッドのないホテルという感じですか。

またろ そうですね。あとは、僕のイメージとしては食事のレベルも高くしていかなければいけない。超一流ホテルのイメージですし、あとは今日本にはないですけどカジノ。一つのエンターテイメントとして共通するのは、カジノに近いですね。

千田 サッカーがルーレットに変わるわけだ(笑)。

またろ 逆に言うとあの建物を作るのにtotoのお金を使っている訳なので、言ってみれば賭博の上になり立っているわけですよ(笑)。そういう前提にありながら、すごくキレイ事に収めようとしていますよね。あのホスピタリティエリアをちゃんと使って稼働率を上げるのであれば、例えば「ここにくれば世界中のtotoができるよ」となれば、ひとつの方法としてはありえるのではないかなと。

それから今、プロジェクションマッピングなどの映写技術が結構進んできたので、空間の照明をちょっと落として、かなり高輝度で人の動きを追えるようなプログラミングが組めれば、ウェンブリーでやってるFAカップ決勝をここに投影して見られてブックメーキングをその場でできるわけです。

千田 2002年W杯でできなかったバーチャル・スタジアムですね。

またろ そうそう、それです。それをもう一回トライして興行ベースに乗っけられるのであれば、賛否両論は当然あると思いますけど、一つの日本の文化としてもう一段ステップを上げるような機会に出来ると思います。そもそも、稼働率を高めるといっても芝は荒らさないわけですから、こういうものを作れば芝の養生機会にもできるわけです。観客を入れてもいいわけですよ。

千田 ただそうすると、運営のJSCじゃなくて民間に委託したほうがいい?

またろ そうです。そこまで開放してもらえるのであれば、ブレークスルーがあるんじゃないかなと。ただそこはFIFAともちゃんと連携をとって、アンチ・ドーピングしかり、黒い方面や八百長廃絶も考えていかないといけませんが。

千田 ただ日本のPTAみたいなところからは、理解されないんじゃないでしょうか。

またろ そうですね。ただ、世論的にカジノの許容化は進んでいるので、不可能な話ではないと思います。これも、興行とリスクヘッジをどうするか、どれだけ説明できるかによると思うんです。実際に世の中には、上流階級の嗜みとしてコントロールされた賭博空間がいくらでもあるわけですから。

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